2025/08/15

ChatGPTが出てきた当初、すぐに話題になったのが、character.aiというサービスだった。これは、歴史上の人物とか有名人に関する記録や著作物などの情報をAIに学習させて、あたかもその人とチャットできるかのようなサービスだった。当時は、なるほど、生成AIにはこういう使い方もあるんだと感心しただけだったが、先日、中国や欧米で「AI故人」というサービスが流行っているというニュースを見て、そうか、有名人や歴史上の人物でなくても、身近な人でも、生前のその人に関する情報を学習させてやれれば、死者と会話できる気がするサービスができるのだと、当たり前のことに気が付いた。
死者の言葉を媒介する霊媒師は世界中にいるが、日本には、青森のイタコが有名である。死者の魂を呼び寄せて、イタコに憑依させて言葉を伝える。AI故人のニュースを見たとき、AIは、現代のイタコの役割もできるんだと感心した。AIに故人の情報を読み込ませて学習させるプロセスが、死者の魂を呼び寄せる儀式に相当する。
更に、今年、2025年の広島の原爆の日のニュースでは、被爆者が高齢化する中で、被爆体験の語り部の方に、長時間のインタビューに答えていただいた音声や動画をAIに学習させて、実際にその方と会話できるような「AI語り部」を作ったという話題を目にした。元嵐の二宮さんが、等身大のディスプレイに写っている、AIの語り部の方と被爆体験について会話しているのを見て、確かにこれはとてもよい使い方だと思った。忘れてはいけないこと、世代を超えて引き継いでゆくべきことを、生成AIの中のニューラルネットの重みに記憶して、皆で共有してゆく。ナイスな応用である。
ニューラルネットワークの重みとして固定されたその人固有の情報は、ある意味、その人がこの世に生きた証としての数値のセットであると言える。身体という有機物がなくなっても、身近な人や多くの人と語り合えるデータとしての実体を残せる。生成AIは、私たちの生命が情報と一体であることをリアルに教えてくれる。そして、改めて生命としての有機物と、その物質が持っている情報との関係を考えさせてくれる。
AI故人のサービスに登録されたその故人の情報は、果たして、身体という物体の呪縛から解き放たれて自由になったのか、それとも、LLMのニューラルネットワークの重みの中に閉じ込められて囚われの身になってしまったのか、どちらだろうか?以前、惑星の写真を見たときに、その惑星の写真が、シャッターを切った瞬間の姿を永遠に残すのか、あるいは、永遠に漂う惑星を、その一瞬に閉じ込めたものなのか、と感じた時の感覚を思い起こした。
2025.8.15.金
AI考・その8 兼
画像:AIのフリーイラストに黒い枠を自作で追加