最近ちゃんとした本を読んでないことを反省して、本屋に立ち寄った時には、岩波文庫の棚の前でしばらく過ごしている。最近読んだ本と言えば、JavaScriptポケットリファレンスとか、Emacsテクニックバイブルとか、IT系の本ばかりで、何か骨のある本を読みたいと思っている。 「自分にとっての古典」にめぐり会いたいのである。何度も読み直したくなるような本、読むたびに新鮮で、新たな発見のあるような内容の深い本。実際はなかなか巡り会えないが、そんな本に出会いたいという思いが、年々強くなっている。
「いわゆる古典」を読めばよいではないかと言うかもしれない。それこそ、源氏でも、万葉集でも、ソクラテスでも、聖書でも。しかしながら、どうも今の私はまだ、それらを十分楽しむ境地には達していないようだ。それらを十分楽しむほど、私のいわゆる古典に対する教養が身についていないのであろう。49才の今にしてそうだから、もしかしたら一生そんな境地には到達しないのかもしれないが、別にそれならそれでよい。「いわゆる古典」は、好きではあるが、「自分にとっての古典」ではないように感じている。
そんな中で、数年前から、「理科年表」が本棚の一番取りやすい場所に立っている。多分、源氏物語こそ最高の古典だと思っている人にとっては、理科年表のような無味乾燥な数字が並んでいるだけの本を、源氏と比べるなど不謹慎だと怒られそうな気がする。しかしながら、私に限らず、「自然」というものに対して、何かある敬意をもっている人間にとっては、理科年表という本は、他にはない、特別な本のように思われるのである。
理科年表の天文のページには、太陽と地球の距離が、およそ1億5000万kmと書いてある。この遙かな距離に思いを馳せるのが、理科年表の楽しみ方である。ただ、その無味乾燥な距離などと言うものに思いを馳せるためには、ある程度の教養と感性が必要である。その手の教養は、源氏物語を楽しむ教養とは少し方向が違うものの、その深さは源氏物語と比べても遜色ないと思っている。
毎度同じような言い訳をしている気もするが、源氏物語は決して嫌いではない。正直に言うと、高校の頃に、有名な箇所を参考書で読んだ以外は、市販のダイジェスト本程度しか読んだことはない。それでも、今から1000年も昔の雅な人々に心惹かれるものはある。しかしながら、生涯にわたって読み返す本かと言われると、今のところの私にとっては、理科年表の方が上位にある。
無人島に何か1冊本を持って行けるとしたら、という問いを聞いたことがある。私の場合は、多分、理科年表を選ぶ。飽きずに何度も眺めることができるという確信が持てるのは、今のところこの本だけだ。先に例にあげた、太陽と地球の距離など、理科年表の極くわずかな1例であることは言うまでもない。思いを馳せることのできる数字が、無限に載っている本と言っても過言ではないだろう。みなさんも一度手に取って、自然の姿に思いを馳せる楽しみを味わってみてはいかがだろうか。
2012.4.25(水)


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