2024/04/14

最近、スティーブン・ピンカーの「21世紀の啓蒙(上)」を読んで、10年前に自分が書いた小文を訂正しなければならないと思った。10年前、自分はこんなことを書いていた。エコ検定の教科書の前書きが生ぬるく思えて、「経済はこれ以上拡大すべきではなく、持続可能な均衡へと向かうべき」だと。ピンカーさんの本を読んでみると、やっぱり当時の考えは浅はかだったと思った。
ピンカーさんは、こう言う。富が増大することで貧困がなくなり、世界はよりよくなる。経済的に豊かになることで、科学技術も更に発展し、その力で環境問題も解決できる。これら、理性・科学・ヒューマニズム・進歩を肯定する考え方のおかげて、今の世界がある。今の世界を過去の世界と正しく比べれば、世界は格段によくなっていることが事実としてわかる。世界はより安全になっているし、病気や貧困も減ってきている。この事実をちゃんと認識して、経済的成長と科学技術をより発展させてゆこう。
とても力強いメッセージで、確かにそうだと共感した。10年前の自分は環境問題の根本は人間の欲望にあるので、それをやめなければいけないと思っていた。その後、3.11も起き、自然の力を前にした人間の限界も感じて、これ以上経済成長などしなくてもよいという考えをずっと引きずっていた。でも、SDGsを目にした頃から、少し考えを改めるようになってきた。経済成長をしつつ、世界を持続可能なものにする、その高い理想は、持ち続けるべきである。
経済成長か、環境保全かの二者択一を迫られたら、どちらかを取るのではなく、第3の道として、環境を守りつつ経済成長する道を作り出す、それがSDGsの精神である。ただし、人の欲望には、ある程度の限度があってもよいと思う。普通の生活を逸脱したような贅沢や、自分の国さえ儲かれば他の地域がどうなってもよい、などといった浅はかな考えはやめてほしい。国際政治はディールではない。ピンカーさんが21世紀の啓蒙を書いたのも、きっかけとしてはそこが大きい。今回のコロナで、世界にはびこるポピュリズムも、コロナウィルスとともに死滅してくれるとありがたいと思う(ちょっと脱線)。
ピンカーさんのメッセージは、SDGsと重なるところが多分にある。世界を正確に認識して、科学技術の力で環境を守りつつ、かつ経済的にも豊かになる。我々人類は、それを成し遂げることができる。ピンカーさんもSDGsも、そのことを教えてくれている。理性・科学・ヒューマニズム・進歩を信じて進もう。
2020.5.9(土)
スティーブン・ピンカー「21世紀の啓蒙」表紙(自宅で撮影)