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役に立たないこと考・その1 〜 本田宗一郎の本業と副業

time 2019/04/21

 NHKの科学番組(サイエンスゼロ)で、ホンダの創業者、本田宗一郎さんがかつてやっていたアイデアコンテストを取り上げていた。とにかく役に立たないものを作るコンテストで、パチンコ(板に釘がたくさん打ってあって、小さな鉄の玉を右下から弾いて穴に入れるという昔の奴)が積んであって、パチンコ玉の入った穴によって進行方向が決まるようになっているため、どこに行くかわらない車とか、人が入れるほど大きなアクリルの球を水に浮かべて、中で人が走ると動くけど、酸欠になるので長くは使えない運動器具(これで太平洋横断するのが夢という)とか、どれも役にたたない、けれど何かインパクトがあって面白いものが作られていたことが紹介されていた。

 このアイデアコンテストは、1970年から23年間も続いた全社イベントで、毎回5億円をかけて行われていたとのことで、本田さんの本気度が感じられる。中でも感心したのが、次の逸話であった。ある大会で、折りたたむと小型のトランク型になって持ち運べるバイクを出品したチームがあって、とても良い出来だったが、それを見た宗一郎さんは激怒したと言うのだ。そんな、明日にでも売れそうな、実用的なものを作るんじゃない!と。本田さんがこのコンテストに求めていたのは、そんなありふれたアイデアではなくて、もっと奇想天外で途方もない変なものだったのだ。普通の社会的通念とは逆の、突き抜けた自由さ。常識的なものの考え方を根本から揺るがすような、超柔軟な発想。それを本気で追い求めていた人ではなかったかと思う。

 また、毎年このコンテストをやるために車を売ってお金を儲けよう、と言っていたというエピソードも紹介されていた。普通なら、本業のクルマ作りに活かすために、お金をかけてでもこういった発想を鍛えるコンテストをやる、と思うのが凡人の発想だと思うのだが、まったく逆なのだ。役に立たないことをやるために、本業で稼いだお金を使う。一流の人は考えることがブッ飛んでいる。役に立たないことをやるために、役に立つものを作って売る。役に立たないことが本業で、役に立つことは副業、本当にこの世の中を豊かにするのは、役にたたないことだと本気で信じていた人なのだろう。

 映画監督でお笑い芸人のビートたけしさんも、映画監督や俳優として国際的な賞を受賞するほどの人だけど、今でもバラエティ番組に出てバカバカしいことを本気でやっている。いくらちゃんとした芸術の世界で認められるような仕事をしても、役に立たないお笑いを大切に守っているような気がする。何となく、本田さんと似た生き方に見えるのだ。(映画が役に立つのかという話は一旦置いておいて)役に立たないことこそ大事、二人とも、それを実践している先達のように思われ、自分も少しはそんな生き方に近づきたいものだと思ったりする。

2019.4.21(日)
画像:本田宗一郎(WikiPediaより)

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
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