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境界考・その2 ~ 事象の地平

time 2025/02/22

2025年2月時点で分かっている、地球から一番近いブラックホールは、へびつかい座の方向に、およそ1,600光年離れたところにある「ガイアBH1」という星である。(2022年のNewsWeekの記事による)地球から銀河系の中心までの距離は、約2万6000光年なので、1,600光年と言えば、ごく近いところにあるご近所さんである。ちなみに、銀河系の中心には、「いて座A*」(エースター)と名付けられた、太陽の400万倍の質量をもつという、とてつもなく重いブラックホールがある。ご近所のガイアBH1は太陽質量の約10倍なので、いて座A*と比べると、ほんのカワイイブラックホールちゃんである。

地球には重力があって、我々が地球で生活できるのは、ある意味重力のおかげと言ってもよい。もし重力がなければ大気もなく息もできないし、我々自身も宇宙に飛んで行ってしまうだろう。でも、地球はそれほど重くないので、宇宙ロケットなどを使えば地球の重力から逃れて、月へ行ったりもできる。一方、ブラックホールは、とても重いので、ロケットどころではなく、光さえもその中から出てくることはできない。だから真っ黒で、ブラックホールと呼ばれる。

ブラックホールには明確な境界がある。一旦その境界を越えたら、何物も決してその境界から外には出られない、一方通行の境界である。そこから出てくるものが何もないので、中がどうなっているのか、外からは一切知ることができない。そのため、ブラックホールの境界は「事象の地平」と呼ばれる。人間が観測できるのは、境界の外側までであり、内部を観察することはできない、人知を超えた境界である。

一般相対性理論によると、質量のあるところでは、空間が歪み、それが重力として観測される。ブラックホールは質量の塊なので、その周辺では空間が激しく歪み、そこに落ちてゆく物質は、ブラックホール側と外側で重力の強さが大きく異なるため、スパゲティのように引き延ばされて見える。また、外から観測すると、重量が強いところは時間が遅れて見えるため、事象の地平に向かって落ちてゆくものを観測すると、そこに到達するのに無限の時間がかかるように見える。つまり、静止して見える。我々には永遠の時間を観測するすべはなので、事象の地平を通過するところを観測することはできない。だからと言って、もし自分が事象の地平へ落ちていったら、何事もなくその恐ろしい境界を通過すると感じるはずだと一般相対性理論は言っている。

スパゲティと言い、無限の時間と言い、事象の地平、まったく人知を寄せ付けない。一旦超えたら後戻りできないという点では、生死の境とされる三途の川があるが、閻魔大王がいる場所など、ブラックホールの事象の地平に比べたら、まだ予想の範囲内である。事象の地平、世の中の境界を探るにあたり、これ以上に強烈で、ワクワクする境界は他にない。

2025.2.22(土) 科学考16兼
写真:スパゲティのフリーイラスト

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
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