Deep Breath

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旅考・その5 〜 旅の歌は片道の旅

time 2023/04/01

 チューリップの「心の旅」という曲がリリースされたのは1973年なので、若い人は多分ご存知なかろう。こんな歌詞で始まる曲である、”あーだから今夜だけは君を抱いていたい、あー明日の今頃は僕は汽車の中〜”。上京のため離れ離れになってしまう恋人同士の切ない恋心を歌っている。当時、自分はまだ小学年だったが、メロディーも歌詞もなぜか心に残って、カラオケに行くと今でも歌う、好きな曲の1つである。

 心の旅に限らず、歌に歌われる旅は、いわゆる旅行ではなく、移動または引っ越しを伴う片道通行の旅が多い。温泉旅行がテーマの歌は、ほぼない。古い歌ばかりで申し訳ないが、思いつく旅の歌をいくつか並べると、山口百恵の「いい日旅立ち」は、結婚して旅立つ歌だし、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」もテーマは心の旅と同じ、中島みゆきの「ホームにて」は、都会から故郷に帰りたいと思うUターンの歌。みゆきさんの曲には「時代」にも、”旅を続ける人々は、いつか故郷に出会う日を〜”という歌詞があり、故郷へ帰る旅が複数の曲でテーマの1つになっている。故郷へ帰ると言っても、もちろんお盆の帰省ではなくて、都会での暮らしをやめて故郷へ帰る、引っ越しを伴う旅である。

 最近の歌で言えば、藤井風の「旅路」という曲を聞いた。この歌は先に書いたような、具体的なシーンが想定できる歌ではなくて、旅を人生に例えた歌である。前回書いた、芭蕉の「月日は百代の過客」の系譜を受け継ぐ正統派だ。その歌は「心の旅」のようにわかりやすいものではなくて、メロディーも歌詞も独特の藤井節で、一度聴いたら耳に残り、何か心の奥まで入り込んでくる。

 ゴダイゴの「銀河鉄道999」も、旅の歌と言ってすぐに思い出す歌である。銀河鉄道の原作を描いた漫画家、松本零士さんが、今年(2023年)に入って、2月に亡くなったのも最近の話題の1つ。銀河鉄道999は、主人公の少年「鉄郎」が謎の美女メーテルと一緒に銀河鉄道に乗って銀河を旅する物語である。銀河鉄道の旅というと楽しそうだが、鉄郎の置かれた境遇や登場する人々は、どちらかと言えば暗い過去や鬱屈した思いをもった人が多く、鉄郎は殺された親の敵討ちをする旅という側面もあり、決して明るい話ではない。

 2023年2月26日の中日新聞の「視座」というコーナーに、宇野重規さんが、銀河鉄道999についてこんなことを書いていた。主人公の少年は、旅で出会った人たちを通して生きる意味を考え、そして、自分の自由に目覚めて成長してゆく物語であると。銀河鉄道999で鉄郎が旅に出るシーンを覚えてはいないが、多分、これまで書いた旅の歌の例に漏れず、鉄郎は、旅立った場所には戻るつもりのない、一方通行の旅を覚悟して銀河鉄道に乗ったのではなかったかと思う。

2023.4.1.土
写真:ゴダイゴ 銀河鉄道999 CDジャケット

Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
toshi@ueba.sakura.ne.jp
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