Deep Breath

DIY, 科学, IT, 環境, LIFE

自然と人工物の間

time 2020/01/31

岡山後楽園
File source: http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Okayama_Korakuen_Garden01.jpg

  里山は、民家の庭に続く裏山のような場所で、自然の草木が生えているが、人間が手入れをすることで、持続的に利用できるようにしている場所である。燃料にするための薪や、木の実や果実、家の中に飾る花などを供給してくれる場所として、また、子供たちの遊び場や、四季を感じられる美しい景観など、モノだけでない価値も提供してくれる。里山は自然のように見えるが、人間が手入れをすることで維持されている人工的な場所でもある。里山は、自然か人工物か、そう問われると答えられないし、そもそも、自然と人工物の区別などばかばかしく思われてくる。

 似たような例として、庭園、というのもある。庭は、草木を植えたり、石を並べたりして、庭師さんが人工的に作るものではあるが、植えられる草木や石は自然のものだし、何より、美しく作られた庭園を見ると、そこに自然の美しさを感じる。庭は自然か人工物か?そう言われると、人工物だけど自然でもあるような、と答える人も多いだろう。

 では、完全な人工物と思われるスマホについてはどうだろうか。スマホは今のところ人間にしか作ることのできない形状や機能をもったものだが、その原料は、石油や金属で、例えばスマホケースを作っている炭素は、人工的に成形されてはいるが、元々地中に埋まっていた石油であり、地球の長い歴史が作り出してきた自然物である。スマホを持つ手が触れている炭素原子は、人間が作り出したものではなく、自然物である。ただし、自然物を加工したものが人工物だという定義であるから、スマホが自然物だと言うのはルール違反の強弁でしかない。でも、それは、本当に人間の作ったものか?と問われたら、石油という地球の恵みを使わせてもらっているという意味では、里山と同じではないかと言われたら、なるほどと納得する人もいるのではないだろうか。

 もう一つ、我々人間自身はどうだろう。人間は、生物という意味では自然が作り出した存在である。生身の身体というレベルでは、精子や卵子まで遡るまでもなく、35億年前からの生命の歴史が生み出した産物に違いない。しかし、人間を作る、つまり子供を作ると言うのは、人の意思が関与しているので、人工的という面もある。更に、昔ある国にあった一人っ子政策とか、また、かの国で国を2分する論点になっている人工妊娠中絶とか、子孫を残すということに関しては、個人の意思だけでなく、政策や宗教が関係した、社会的な要素を持った高度に人工的な事柄でもある。

 別の観点では、1つの細胞から発生した自然な身体に、人工的に手を加える整形や、義手や義肢など、失われた機能を人工的に補ったりする技術を思えば、人間自身もまた人工的な存在だと言ってよい。そうなると、化粧や毎朝の髭剃りでさえ、身体に手を加える人工的行為とも言える。しかし、あくまでも生物としての人間は自然物だと思う。その証拠に、この有機物は、100年ぐらいすると土に返る。

 最後に、完全な自然物を見つけたので、書いておかない訳にはいかない。それは、宇宙である。人間が影響を及ぼせる範囲は、まだ、せいぜい太陽系のレベルであり、大宇宙に比べれば極めて小さい。この宇宙のほとんど全てが人工物の存在しない大自然なのである。人が宇宙に行ってみたいと思うのは、もしかしたら、自然を求めているのかもしれないし、宇宙を全て人工物にしたいという欲求の現れなのかもしれない。そう思うと、自然と人工物の境界や、里山のあり方について考えることは、とても大切なことを教えてくれているのだと気付く。

2020.1.31(金) 岡山後楽園 Wikipediaより

コメント

  • […] 自然と人工の間では、里山とか庭園などについて、自然物でありながら人工的に作られたものであって、自然と人工の間にある存在であるとか、似たような話で、ゴルフというスポーツについて、人工的な環境でプレーするバスケやバドミントンのようなものと、自然を相手にする登山やサーフィンのようなスポーツのちょうど中間に位置するもので、人工的に作られた自然の中でプレーするところに面白さがあると考えたりした。 […]

    by 境界考・その3 ~ 境界と「間」 | Deep Breath €2025年3月29日 11:17 AM

down

コメントする




Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
toshi@ueba.sakura.ne.jp
DIY作品集はこちら