Deep Breath

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旅考・その1 ~ 妄想旅

time 2023/01/29

 友近・礼二の妄想トレインというテレビ番組が好きで、ほぼ毎週見ていて、もう1年以上になる。月曜の夜9時からBS日テレでやっている番組で、結構人気があるようだ(2023年1月時点)。コロナで移動が制限されて、旅行会社がバーチャルツアーを売り出したりしている昨今、タイムリーなこともあって人気が出ているのかもしれない。

 内容は、番組スタッフが現地で撮影してきた映像を、スタジオで見ながら「行った気になる」ことで旅先を紹介するという旅番組である。鉄道がテーマの1つになっていて、友近と中川家礼二のMC2人の他に、毎回のゲストに、鉄道好き芸能人と旅好き芸能人がそれぞれ1人づつ出て、お気に入りの電車や旅先を紹介する。鉄道好きと言うとオタクが多い印象で、確かに演歌歌手の徳永ゆうきなど、オタク的なゲストも多いが、毎回、とても仲の良い雰囲気で、それがまた見ていて楽しい番組である。

 旅について考えるきっかけとなったのが、この、妄想旅だった。実際に旅をしてないのに、映像を見ながら珍しい電車に乗ったり、美しい景色を見たり、美味しいものを食べたりすることを「妄想」するだけだが、出演者は口をそろえて「なんか、ほんとに行った気になる。」と言うし、見ている自分も、なんだかその列車に乗った気になったり、そこへ行ったような気になる。実際にその場に行かなくても、行った気になったら、旅をしたと言えるのだろうか?

 最近、妻が読んで「これいいよ」と言うので、「Seven Stories 星が流れた夜の車窓から」(文芸春秋)という本を読んでみた。JR九州の豪華観光列車「ななつ星」の旅をテーマにして、7人の作家が書いた短編小説やエッセーを集めた本である。ななつ星にちなんで選んだ7人の作品はそれぞれ面白いし、装丁も綺麗でなかなかおしゃれな本である。中でも、川上弘美さんの短編小説が印象に残った。若干ネタバレになるが、ななつ星の旅を計画していた高齢の親とその娘が、事情で行けなくなって、離れた土地に住んでいながら、YouTubeのななつ星のチャンネルを同じ時間に見てバーチャルツアーをすることで、実際に旅行に行った気になるという話である。親子関係をほのぼのと描いていて、何かいいなぁと思ったし、妄想旅というシチュエーションを上手く描いていて「そう来たか!」と思って感心した。

 確かに、実際にそこに行って、その場に身を置いてみて初めてわかること、気付くことはあると思う。音楽のライブや演劇の舞台などは、TVやYouTubeで見るのと実際にライブ会場で体感するのでは全く違う体験であることは間違いない。でも、例えバーチャルであっても、後になって、あぁ、あの時、バーチャルの旅であそこへ行ったよなぁ、と思い出して、その時心が動いたことや気付いたことをしみじみ思い出せるのなら、それは、旅をしたと言ってもいいのではないかと思う。友近・礼二の番組や川上さんの小説は、そんなことを考えさせてくれた。

2023.1.29.日
写真:ななつ星 Wikipediaより

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
toshi@ueba.sakura.ne.jp
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