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仏像の感覚・その1~仏像と背面感覚

time 2010/07/23

  仏像の背中にはたいてい、「光背」(こうはい)と呼ばれる巨大な板が設置されている。仏様の種類によって、挙身光(きょしんこう)と言ったり火焔光(かえんこう)と言ったりするようだ。仏像の入門書には、挙身光は別名、蓮弁形光背(れんべんがたこうはい)と書かれていたので、光背の独特の形は、蓮の花びらの形からきているものだとわかる。また、火焔光の場合は、文字通り炎をかたどったものである。

有名な東大寺法華堂の不空羂索観音像(ふくうけんさくかんのんぞう)の背光は、丁度おへその裏側あたりを中心にして、数十本の金色に輝くバーが、360°全ての方向に向けて取り付けられており、この身長3.6メートルの巨大な観音様を光り輝かせている。私は、ぜひ一度、この巨大な、8本の手を持つ観音様に会って、じっくり仏の世界のことを尋ねてみたいものだと思っている。

ところが、この不空羂索観音像の背光は、製作当時に設置されていた位置よりもかなり下の方にずれているのだと言う。本来、光の中心はへその位置ではなく、もう少し上の、上半身のあたりにあったのだと言うことだ。どのような経緯でそのようなことが分かったのかは不明だが、光背の中心を胸のあたりまで引き上げると、丁度光の筋が、合掌している手の平を中心にして広がるように見え、更にこの観音様の美しさを引き立てるのだという。

その話を聞いて、「なるほど」と思った人は、ロルファーか、10シリーズを深いレベルで受けた人だろう。なぜかって、この観音様の本来の背光の中心は、多分、ロルフィングで言うLDH(Lumber Dorsal Hinge)のあたりではないかと直観するからである。LDHは、手足の動きの起点になる場所で、体幹の中心、人によって背骨のS字カーブが異なるし、感覚も異なるので一概には言えないが、みずおちの裏あたりの、背骨の前面近辺にある。観音様の背光の光の中心が丁度そのあたりだと言うのは興味深い。

ロルフィングでは、「コア」の感覚を養うことを主眼とするが、「背面感覚」も重要視する。背面感覚は、コアの感覚よりも比較的感じることが容易なので、コアへの入り口としての意味もあるが、それだけではない。背面感覚はコアの感覚同様、人間にとって重要な感覚である。人間の目は不幸にして前面にしかついてないが、空間は前方にも後方にも等しく広がっている。前方だけを特別視するのは偏った見方ではないか。前後に等しく意識を向けられること、後方も含めた空間全体の中で、自分と対象をとらえられること、これが広い視野でモノを見られる優れた人なのだと思う。

ブッダは間違いなくそんな人だったのだと想像する。だから仏様を形にした仏像には、強力な背面感覚を表す背光がデザインされているのだと思う。別に仏様のような悟りを開きたいわけではないが、よく生きるために背面感覚を磨くことが大切だと、多くの仏像の光背が教えてくれているように思う。
2010.7.23(金)
写真:東大寺法華堂 国宝 不空羂索観音立像
http://www.toppan.co.jp/news/newsrelease724.html より

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
toshi@ueba.sakura.ne.jp
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