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記憶考・その5 〜 記憶装置としてのDNA

time 2021/05/16

 DNAは生物の仕組みの根幹となっている物質で、生物としての情報伝達と実体としての生体を作り出す設計図の役割を担っている。どんな生き物も、体内にアデニン・グアニン・シトシン・チミンの4種類の塩基と呼ばれる物質が並んでいる紐型の高分子を持っていて、何らかの方法で親世代から子世代に伝達されてゆく。生物の、この単純で強力なしくみは、まったく不思議で畏敬の念しかない。

 ゲノム解析の技術が発達して、短時間でその生物の全てのゲノム情報が得られるようになった。目にした方もあるかもしれないが、AGCTの4つのアルファベットが、AAGTTTCGAGAGATGG・・・(この並びはランダムにキーを打っただけです)のように延々と続いているだけで、見た目には無味乾燥な単なるデータである。普通の人が見てももちろん意味はわからないし、それがアルコールを分解する酵素の有無を記憶していることなど、この4種類の文字の並びから読み取れるはずもない。しかし、この一見無意味に見える文字の並びが、生物種とその個体の特徴を表現していて、人間には猿のような体毛が生えることはない。

 そう考えると、DNAは記憶装置であると言ってよい。ヒトゲノムの全塩基対の数は31億個、1塩基は4種類のうちの1つなので、情報量で言うと2bitの情報を持っていることから、ヒトゲノム全体で62億bitの情報を保持している。データサイズとしてわかりやすくバイト(8bit)単位で言うと、およそ800Mバイト。スマホで撮った写真1枚を4Mバイトとすると、写真約200枚分のデータ量である。今、自宅で使っているハードディスクは、3Tバイトの容量があるので、およそ4000人分のゲノム情報を家庭用のNASに保存しておけることになる。

 ちなみに、この31億塩基対の全てが遺伝情報というわけではなく、遺伝子として働く部分、すなわちヒトの身体を作るタンパク質を作るための情報は、全体のおよそ1%程度で、遺伝子の数としては、22,000個しかない。(いくつかの塩基対で遺伝子1つを構成するので22,000塩基という意味ではない点に注意)この、22,000という数は、ウニの遺伝子の数とほとんど同じらしいし、イネの遺伝子数は33,000個で、ヒトより格段に多い。地球環境に多大な影響を与えているヒトと言う種も、分子レベルの設計図を見ると、ウニと大差ないのである。人間のあり方を考えるのは大事だが、その前提としてこうした科学的な事実をまず認識してからにしたほうがよい。

2021.5.16(日)
写真:うに丼(フリー素材より)

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
toshi@ueba.sakura.ne.jp
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