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無駄を省かない生活 ~ 火星生活とゲノムの無駄

time 2018/01/19

    人類が火星で生活することを真剣に考える時代、アメリカの民間団体である、火星協会が、アメリカの砂漠や北極圏で、「火星模擬生活実験」というプロジェクトをやっている。数か国から1名づつ選ばれた隊員が、火星を模擬した実験棟で、半年近くにわたる長期間、共同生活をしながら、チームダイナミクスの観点で火星への行き来の期間(4年間!)や、火星現地での生活の問題点を洗い出すのが目的とのことである。

    そのプロジェクトで、8名のチームの副隊長として参加した、村上祐資さんが、こんなことを言っている。火星模擬生活実験のような閉鎖環境では、「無駄を省かない」生活が大切なんです、と。実際、長期間にわたって閉鎖空間で生活することは、人に多大なストレスとなる。例えば水がないために、シャワーを使えるのは週に1回と言われたら、それだけでどれだけ地球が恋しくなることか、想像に難くない。そんなストレスフルな生活で重要なのが、ミッションに関係ない「無駄」なのだと言う。

    村上さんがチームを存続させるためにやった策がいくつかあって、例えば、なるべくしょーもない冗談を言って笑いをとる、足裏マットを持っていく、料理に凝る、などを紹介していた。どれも生き延びるためのミッションには関係ない、なくてもよいこと、つまり無駄なことばかりである。ストレスがたまって不満の水があふれそうになった時、こうい言った無駄がチームを救うと言うのだ。

    足裏マットは、誰でも参加でき、身体がほぐれると同時に、マットに乗った人が痛がっている様子を見てチームのみんなが笑顔になることで、不満を和らげる。宇宙食のようなレトルト食品でも、時間をかけ、創造力を発揮して、見た目だけでもおいしそうなデザートなどを作って皆に振舞うことで、それが思い出になり、今日一日を生き延びると言う切迫感を軽減すると言う。

    無駄と言えば、最近読んだ「DNAの98%は謎 生命のカギを握る非コードDNAとは何か」(小林武彦著・ブルーバックス)という本を思い出した。DNAに書かれている遺伝情報、いわゆる遺伝子は、全ゲノムのわずか2%。残りの98%は、遺伝情報を直接は含まない、非コード領域。単純に考えると、ほとんどが無駄なエリアということになる。しかし、この無駄こそがDNAシステムを維持する上で重要なのだと言う。

    わかりやすい例では、重要な2%の領域が98%の背景に埋もれているということが、遺伝システムを非常にロバストなものにしている。宇宙からは、宇宙線という放射線が絶えず降り注いでいて、生き物のDNAを傷つけることがあるが、その大半は98%の領域で受け止め、本当に壊れてはいけない2%を守っている。それだけでなく、しくみは複雑だが、この非コードエリアが、サルと人の違いを生み出したり、老化や寿命を決めている重要な領域だということがわかってきた。DNAの無駄のおかげで、私たちは生きている。

    考えてみれば、あたりまえなのかもしれない。休みの日、何もしないでぼーっとする時間がなければ、平日、仕事もはかどらない。世の中、無駄がなければ進歩もない。仕事を効率よくやるのは、無駄な時間を増やすためなのだ。無駄を省かない生活は、丁寧に生きることにつながっている。

2018.1.19(金) 足裏マット

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
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