2024/04/14

私たちは、生物学的には、ホモ・サピエンス(現生人類)という種に属する生き物である。その起源については、これまで、世界各地の「原人」や「旧人」が、各地で交雑しながら現生人類に進化したという「多地域進化説」が定説となっていた。しかし近年、ミトコンドリアのDNA解析の研究などから、現生人類はアフリカで誕生し、その後、今から十数万年前頃に、世界各地に広がっていったという「アフリカ単一起源説」が有力となり(※1)、今では多くの人類学者が支持している。
ホモ・サピエンスがアフリカを出た理由には、様々な説があるようだ。気候変動による干ばつ、他の人類や生物との生存競争、餌となる獲物や植物の減少、ライオンなどの天敵から逃れるため、気まぐれや好奇心など(※2)。理由は1つではなく、様々な理由が重なって他の土地を目指したのだろうが、他の生物に比べて、道具を使うことで環境への適応力を高めていたことも、他の土地に積極的に出ていく要因の1つだったのではないかと想像する。
そう言えば、このコラムの中でも「方丈記を読む・その3~モバイラーの先達 長明」の中で、縄文人の集落の移動について書いていたことを思い出した。近くの集落との争い、ゴミの捨て場所、獲物の数などの問題を解決するための最も簡単な方法が「移住」だったという説で、それも、もともと人類がアフリカから出て、より住みやすい土地を目指して旅の途についた前歴のある種族であることを思えば、何も縄文人だけの特質と言うわけではなく、ホモ・サピエンスの持つ性質だったというだけのことだろう。
最初の段落に書いた「アフリカ単一起源説」のサイト(※1)に、こんな研究活動が紹介されていた。我々の祖先がおよそ3万8000年前に日本にやってきた経路は、従来は大陸と陸続きだった時代に歩いてやってきたと言われていたが、東京大学の海部さんたちは、そうではなくて、船に乗って南の島を渡ってやってきたという仮説を立て、しかも、それを検証すべく、実際に手作りの丸木舟を作って、台湾から沖縄まで人力で海を渡ったみたという。その説が正しいとすると、旧石器時代に海に漕ぎ出した我々の祖先も相当な冒険野郎だが、実際に手作りの船でその旅を再現してみたという海部さん達も、クレイジーな現代の冒険野郎である。
人類は、最初から旅をする生き物だった。相変わらず過ぎてゆく日常の時間が、ふと退屈に思えて、無性にどこかへ旅に出たくなるのは、だから、人類である以上、遺伝子に組み込まれた、当然の気持ちなのである。
(※1)https://globe.asahi.com/article/14501100
(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/7be80d389e4fd4302af627d1c43584b7e8c97a1f?page=4
2023.2.11.土
写真:人類の進化(フリーイラストより)