2024/04/14

Kenny Gの曲を聴いていたとき、心動かされるメロディーに出会って、曲名を確かめたくなった。スマホの画面を見ると、”In The Rain” とあった。しんみりとした中にもハッピーな感じの曲で、多分、雨の中幸せなことがあったのだろうなと思わせるような曲。今までになかった雨のイメージを与えてくれたようで、ちょっと嬉しくなった。
曲には、その曲を特定する名前がついている。名前のない曲はまずない。クラッシックの曲でも、ピアノ協奏曲第3番の第1楽章とかの名前がついていて、曲名を言うことで、ある音の連なりを特定できる。以前、科学考で取り上げたジョン・ケージの無音の楽曲でさえも、4分33秒という曲名(?)がついている。もし曲名がなかったら、曲を口ずさんで伝えるしかないが、それで「この曲」と特定することは難しい。
コンピューターが人の名前を扱う時には、氏名だけでは個人を特定できない。同姓同名の人がいることが主な理由だが、扱う対象が日本人だけとは限らないし、世界には姓のない国の人もたくさんいる。なので、システムでは人が呼ぶ名前の他に、システムがその人を特定できる番号が必要になる。やっと普及してきたマイナンバーはそのための番号である。バーチャルな名前空間で一意にそのデータを特定するための番号、データベースではそれを「主キー」と名付けている。
一体、固有名詞とは何なのだろう、と疑問に思ってしまう。Wikipediaには、固有名詞とは「それ以外に存在しない一つを区別するために、それのみに与えられた名称を表す名詞のこと」とある。では、その人を区別するために国のシステムが管理している一連の番号のセットは固有名詞なのだろうか?そもそも単なる数字の組み合わせは名詞ではないので、この定義にはあてはまらないけれど、でもこの番号がなければ、コンピュータは「それ以外に存在しない一つ」を区別できない。
あいみょんの名曲マリーゴールドに、名前にまつわるこんな歌詞がある。「柔らかな肌をよせあい、少し冷たい空気をふたり、かみしめて歩く今日という日に何と名前をつけようかなんて話して」
二人が今日という日につけた名前は、例えそれがありふれた名詞だったとしても、多分、まぎれもなくそれ以外に存在しないただ1つの名前だと思う。Kenny Gの In The Rain という曲名も、単に雨降りを表す普通名詞ではなく、その美しいメロディーを想起させる唯一の曲名である。そう思うと、固有名詞とは、心動いた何か特別な記憶と結びついたものの名前、と定義したほうがしっくりするように思う。
2020.12.27(日)
写真:マリーゴールド(フリー写真素材)