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道具考・その3~「食物は道具ではない」 道具の定義

time 2009/07/29

 この2回、道具について書いてきて、一体、道具とは何だろうか?、と自分なりの定義をしてみたくなった。まずは、広辞苑を引いてみる。いきなり「仏道修行の用具」とあり、アハ!「道具」と聞いて、仏教を思い浮かべる人は、100万人に1人ぐらいだろうか。2番目の意味が、一般的に使われる意味に近い。「物を作り、また事を行うのに用いる器具の総称」。器具、という言葉がひっかかるが、まぁ、あたりまえの定義。

英語で道具と言えば、”tool”。Oxford Dictionary of Englishには、残念ながら、仏教の道具と言う意味はなく、”a device or implement, especially one held in the hand, used to carry out a particular function”。「特に、掌に持って使うもの」と言うところが、広辞苑より英語らしいところか。確かに、日本語の「道具」よりも、英語の”tool”の方が若干軽い感じはする。辞書の定義は面白くもなんともない。仏道修行には、クラッと来たが、私は、辞書的な通り一遍の意味ではなくて、もう少し「道具」の本質を定義してみたい。

私は、演繹より帰納を信じるので、まずは、身近なもので、「道具」と「道具でないもの」を分けてみることにしよう。今、書斎から目に映るものを列挙すると、ハサミ、ペン、電子辞書、蛍光灯、パソコン、解剖学の本、電源コード、本箱、扇風機、観葉植物、腕時計、鏡、ドア、ポスター、窓、家、etc.。分けるも何も、全て道具ではないか。「家」はちょっと微妙かも知れないが、傘が雨を防ぐ道具だとすれば、家もまた、人が住むための大きな道具と言っても差支えなかろう。そう言い始めると、道路は車を運ぶ道具だし、飛行機も人や物を運ぶ巨大な道具と言ってもよい。では逆に、一体、道具でないものは何だろうか?

道具と思われるものより圧倒的に少ないが、例えば、こんなものを思い浮かべた。道具ではないもの、食物、電気、そしてもちろん、動物や人間。ちょっと迷うのが「光」や、木材になる「木」などで、多分この辺が私の定義する道具と非道具の境界ではないかと言う気がする。大雑把に言うと、「自然」は道具ではなく、「人間の作り出したもの」は道具。どうも私の中では、人間が作ったものかどうか、が道具か非道具かの区別の元になっているようである。何だか、辞書の定義とそれほど違わない、あたりまえのような定義で申し訳ない気もする。しかしながら、この定義には、もう少し深い、「道具」のイミがあるように思われてならない。

例えば「食物」。自然が育んだものを人間が利用できるようにした。昔、人間は「食物」を利用せず、感謝して自然からいただいていた。食べ物は、全てが「命あるもの」。人間は未だかつて命を作りだすことはできていない。人が作り出せないものは「道具」ではない。しかし、現代人の食生活は、どこかしら食物を、お腹を満たす道具のように感じていないだろうか?

例えば「電気」。電気は人間の存在有無にかかわらず、自然界に存在する実体である。世の中は、すべてプラスとマイナスの電荷からできている。人間は電気を作り出すことはできない、しかし、自然界にある電気を取り出して利用することはできる。だから、電気は本来、道具ではないにもかかわらず、「道具」の一部になってしまった。言わば、便利を作り出す道具として。

例えば「時間」。時間は実体こそないが、自然にとっても人間にとっても、普遍的に流れて行くものであり、どちらかと言うと「自然」の一部であり、当然人間は時間を作り出すことはできない。だから時間は「道具」ではない。にもかかわらず、人間は、時間を、道具を作り出すための「道具」、あるいは、お金を儲けるための「道具」に貶めてしまったのではないか?

自分が作りだせないものを、「道具」として扱う傲慢さが、社会的に何も顧みられることなく、逆に奨励されている。学校教育では、本来幸せであるはずの「時間」が、非人間的な頭脳労働のための「道具」として使うように奨励されているように見える。都会でなくても、小学生までもが「時間」が欲しいと言う時代である。

道具は、自分たちで作ることのできる範囲に留めて、正しく、楽しく使おう。そして、道具ではないものを「使用」したり「消費」したりすることはやめよう。道具でないものとは、「共に生きる」ことが、奇しくも広辞苑が先取りした、仏教にも一脈通じる、人の道ではないだろうか。

2009.7.29(水)

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
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