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道具考・その1~「弘法こそ筆を選ぶ」

time 2009/07/14

 「弘法筆を選ばず」と言う格言がある。確かに一面の真実だとは思うが、全く賛同できない。私の感覚では、「弘法こそ筆を選ぶ」である。文字の達人たる弘法太子こそ、筆や墨、紙などの道具にはとことんこだわったに違いないと思う。

自分の経験からは、何か作品を作るとき、よい道具を使った場合と道具が悪い場合では、作品の出来栄えに大きな違いが出ると断言できる。だから、自分は仕事や趣味の道具にはこだわりたい。今すぐ全ての道具を整備できるわけではないが、順番に道具を充実させてゆく楽しみは、仕事や趣味の中身そのものに勝るとも劣らぬ楽しみだと感じる。この文章のような短文を書く時でさえ、エディタにはこだわりたいと思ってしまう。

マリナーズのイチロー選手は最高のプレーをするために、バットやグローブ、シューズなどの道具には相当なこだわりがあり、丹念に手入れしていると聞く。自分のプレーを最高のものにするためには、まず、信頼できて、自分の手足の延長になってくれるような、良質な道具が欠かせないのだ。だから、筆にこだわらない人は、文字にもこだわりがなく、人を感動させるようなよい字は書けないと思う。例え人に見せる字でなく、自分の満足のために書くのだとしても。

ただし、道具にこだわったからと言ってよい仕事ができるわけではないことは言うまでもない。逆に、一流の仕事人は、自分のお気に入りの道具が使えない場面でも、仕事においてそれなりの品質を確保できるものだとは思う。それが、冒頭に述べた一面の真実の意味である。実際、「弘法筆を選ばす」は、自分の作品の出来栄えの悪さを道具のせいにしてはいけないと言う意味で使われることが多いらしい。で、あれば、尚のこと。道具が悪いと言うのなら、道具を良くする努力をすべきである。道具にこだわること、それが上達の第1歩だと思う。道具が手足の延長であるならば、腕を磨くということは、道具を磨くということとぴったり同じ意味になる。

ま、確かに、身分相応の道具と言うのはあって、仕事であればいざ知らず、趣味であれば法外に高価な道具を次々に求めるのはいかがなものかと思う。私自身は、どちらかと言うと、リーズナブルな道具選び、作り方や使い方、手入れの仕方など、工夫次第で道具の使い勝手を向上させることに楽しみを見出すタイプである。そんなところから、日本のレオナルド、空海にちょっとでも近付けたらと思って、日々研鑽するのである。
2009.7.14(火)

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Toshi's Profile

会社員(製造業・雇用延長)。元SE、元大学非常勤講師、元ロルファー。DIYと散歩とメモが趣味。Moleskineを持ち歩いている。愛知県岡崎市在住。
toshi@ueba.sakura.ne.jp
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