2024/04/14

前回書いた記憶の鍛錬法で、朝、通勤電車で聞いたラジオの「グリーン文字盤」という言葉を、会社に着いてから思い出そうとしても全く出てこなかったことがある。ちなみにグリーン文字盤とは、通常であれば腕時計の文字盤には、白・黒・青のものが多いが、今年(2021年)は時計の見本市で緑の文字盤を出すメーカーが多くて、流行になっているという話題である。
朝は思い出せなかったので、今日のキーワードは忘れてしまったか、と思ってあきらめかけていたが、昼休みに、昔書いたメモを読み直していた時、偶然「グリーンリカバリー」という言葉が書いてあったのを目にして、今朝思い出せなかった「グリーン文字盤」という言葉を思い出した。そして、あー、今朝電車で聞いたのはこれだったのだ!と、とてもスッキリした。思い出せなくて、悔しくてもどかしかったことを、思い出したとたんに何だか霧が晴れたように清々しく嬉しい気持ちになった。
だから、さっき、その言葉を忘れてしまったと書いたが、そうではなかった。きっかけさえあれば、記憶の中から取り出すことができたのだから、決して忘れたわけではなかったのだ。記憶の中から引っ張り出すことができなかっただけで、記憶の中にはちゃんとしまわれていたのである。必要なのは、記憶そのもではなくて、思い出すためのきっかけを与えられるかどうか、なのであった。海の中に魚は確かにいるので、餌に食いついてくれれば釣り上げられるという意味で、釣りに似ている。思い出せないだけで、記憶にはちゃんとしまわれている、記憶とはつくづく不思議なものだ。
コンピューターの記憶装置なら、覚えておきたい事柄を、0と1の並びにして、記憶装置の特定の場所の電荷のありなしの並びとしてセットしておくだけだ。思い出すときには、その特定の場所を指定して読み出した0と1の並びから、ソフトウェアが意味を再生する。しくみとしてはとても単純であるが、その「特定の場所」を指定しなければ、記憶した01の並びを読み出すことはできない。その点では、記憶装置には記憶されているが、トリガーがないと思い出せないという性質は人間の記憶に似ている点もある。しかし、人間の脳の記憶は、到底そのような単純なものではない。
一体、脳の中では物事はどのように記憶されているのだろうか。脳の働きをコンピューターで真似している現代のAIでは、脳の神経回路網をモデル化したハードやソフトでAIシステムを作っている。通常ニューラルネットワークと呼ばれるこのシステムでは、ニューロンの回路と、シナプス(結合点)で信号を制御するしきい値を重み付けした値を、回路全体で最適な値にチューンすることがAIシステムを作るということである。(超概略化しているので不正確な点もありますが、そこはご容赦を)
ただ、その枠組みの中で、例えば「グリーン文字盤」という言葉や概念をを記憶するというのは、ある回路と重みを設定することに他ならないが、覚えたその事柄を思い出すためのきっかけは、どのように与えればよいのだろうか?多分、自分がそのへんに不勉強なだけで、現代の進んだAIの研究ではとっくに解明されていることなのかもしれないが。海の中の魚を釣る要領で記憶の海を探すのだから、釣りのプロセスを応用した「記憶の釣りモデル」を考案するのも一興かもしれない。
それにしても、人間の脳のしくみなど、複雑過ぎて、人間の脳で理解できるものなのだろうかと、わずかばかりのニューロンとシナプスの結合回路で考えている。
2021.5.1(土)
写真: グリーン文字盤